原子核物理学と放射線生物学における理論 教育

【原子核物理学における理論 】
低エネルギー領域における現象を記述する原子核物理学では、核子の自由度から原子核の 構造を記述する「微視的核構造理論」の構築に力が注がれている。 近年ファデエフの方法 やその拡張、あるいはモンテカルログリーン関数法などによって非相対論的な核子少数多 体系の厳密解が得られるようになった。 また、この微視的核構造理論を基にした核反応物 理学の構築にも力が注がれている。 ここで培われた方法はハイパー核の研究などにも適用 されている。 より核子数の多い原子核の記述のために平均場理論を基にした集団運動模型 が整備され、着々と精密化が進んでいる。 また大規模な殻模型計算を数値的に行う手法も 飛躍的に発展し、模型の範囲内では満足な計算結果を得られるようになった。 一方量子分 子動力学を基にした AMD 模型等により核構造の記述が試行されているが、その理論正当 性はいまだに判然としない。 中間エネルギー領域の現象を記述するハドロン物理学では量子色力学(QCD)に基づく記述 が目標とされている。 理論的に疑問点の少ない摂動論を用いた現象の記述は、摂動的に記 述できる部分と非摂動的に記述しなければならない部分との因子化分離が可能な場合には よく理解されている。 しかし非摂動領域での有効模型や QCD 和則による研究は、永年月 にわたる多大な努力にもかかわらず芳しい進展を見ない。 一方で模型に依らない格子QCD 数値計算の方法は急激かつ長足の進歩を見せている。 現在主な研究内容としては、相対論 的高エネルギー重イオン衝突時等における QGP(クォークグルーオンプラズマ)生成の機 構やその性質、高密度核物質におけるカラー超伝導状態の記述、またカラー超伝導相からダ イ・クォーク凝縮相への BCS-BEC クロスオーバー、更に中性子星内部における中間子凝 縮等が挙げられ、広い温度・密度領域における核物質の多様性に関する研究を相転移(カイラル相転移、クォークの閉じ込め・非閉じ込め相転移)という概念の下、活発に行われている。
【放射線生物学における理論】
放射線が医療に、産業に、発電に、社会的に広く利用されるようになると、被曝の危険も高 まるので、その障害の実態を解明し危険を防止する基礎となる放射線生物学は、原子力時代 においてその社会的責任を果たさねばならないものとなっている。 放射線生物学の研究対象となる放射線は、紫外線、X 線、γ(ガンマ)線などの電磁波や、 高速荷電粒子、中性子などである。これらの放射線は赤外線や可視光線と異なり、その光子 または粒子のもつエネルギーがきわめて高いので、細胞が照射されると細胞内分子はイオ ン化されるかまたは励起状態になり、その結果吸収される放射線のエネルギーがいかにわ ずかでも、その量に応じた化学変化がおこる。このような変化は細胞成分に均一におこるが、 生体分子のうちで生命の発現と維持に重要な役割をもつ生体高分子、とくに遺伝子 DNA(デ オキシリボ核酸)におこる変化は細胞の機能に重大な影響を及ぼし、いかにささいな変化で も細胞は細胞死や発癌(がん)などの致命的な障害を受ける。 突然変異細胞がたとえ 1 個でも発生すれば発がんや遺伝的影響の可能性が生じる。被ばく 線量が増えると影響発生の確率が増加する。放射線発がんのプロセスで最低潜伏期間が白 血病で2~3年でその他の固形がんが 10 年である。 細胞の自殺はアポトーシスという。変異細胞ががんになるまでには、さまざまな過程が必 要である。被ばくによる発がんのリスクによると被ばく線量1Sv を超えるとリスクの上昇 がみえてくるリスクが 1.5 倍になる。100mSv 以上被ばくすると顕著に発がんのリスクが あがる。がん死亡リスクは、100mSv の被ばくにより約 0.5%上昇すると推定される。3 人に 2 人ががんになり、3 人に 1 人ががんで亡くなる。100~200mSv のがんリスクは、 野菜不足や受動喫煙と同じレベルである。100mSv 被ばく時の固形がんによる死亡の推定 生涯リスクは 30 歳の方を基準に考えると、50 歳になると約半分になる。放射線は傷つけ 突然変異を引き起こす。動物実験では、放射線被ばくにより生じた突然変異が子孫に引き 継がれていることが確認されている。ヒトでは遺伝的影響は観察されていない。遺伝的影 響(染色体異常など)の有意な増加 は認められていない。対照二世とは被ばくしていな い両親から生まれた子供で被ばく二世が被ばくされた親から生まれた子供のこと。父親の 放射線被ばくによる次世代への影響は検出されなかった。変異細胞ががんになるまでに は、さまざまな過程が必要である。確定的影響には、しきい線量がある。100mSv 未満で は、それ以外の要因によるりすくの変動により、はっきりした影響が観察されない(にく い)。現在は、放射線防護の立場から発がんリスクを推定するため、「閾値なし直線仮 説」が導入されている。低線量(特に 100mSv 以下)被ばくにおける放射線影響につい ては不明な点が多いが、安全側に立って影響があると仮定してリスク推定を行う。国際放 射線防護委員会(ICRP)は各種疫学データを「閾値なし直線仮説」モデルに当てはめ、がん発生リスクを発表している。